雑誌「クルーズ」に好評連載中の「世界の船旅」CRUISE誌上放映。
２０１５年９月２８日発売の２０１５年１１月号に掲載された内容をご紹介します。

施設が充実している客船ではどうしても撮影スケジュールが過密になります。しかもその合間を縫って、豊富な施設を楽しむ乗客たちの姿をなるべく多く撮らなければなりません。そんな中、船長にインタビューをしていると船上のサーフィン施設「フローライダー」の話題になり、「それならベスト・サーファー の映像があるよ」と言って 一枚のDVDを取り出してきました。

　「確認してみるかい」と船長はそのDVDを再生し始めたのでした。「貸してもらえるなら、見るのは後でいいんだけど……」と時間を気にしながらも、船長に付き合って見ることにしました。その映像にはさっそうとサーフィンを楽しむ男性の姿が映っています。よく見ると、それはすぐ横でうれしそうにリモコンを握っている船長ではありませんか。こちらの視線に気づいた船長は「自由に使っていいよ」と満面の笑みを浮かべて言ったのでした。

　北極圏横断クルーズでは 凍えるような寒さの海をひたすら走る航海日が数日続きました。撮影をしていても、町の明かりがだんだん恋しくなってきます。

　そんな気持ちを察したように、イヌイットのクルーがラウンジで伝統のダンス を披露してくれました。布を張ったドラムを軽快に取り回し、独特のリズムで体を動かすユニークな踊りには、大自然に敬意を払い、静かに語りかけるという意味があるそうです。私たちと同じように物寂しさを感じていた乗客たちも、その踊りに心が癒やされリラックスした様子でした。
　数日後、船を取り囲み流 れる氷山をデッキで撮影していたときのこと。大きな流氷に乗ったホッキョクグマがこちらを見ていたのです。すぐ横にいた乗客もそれを見つけ、「まるであのダンスが呼んだみたいだね」とつぶやきました。私は心からその言葉に納得し、自然の神秘と命の力強さをカメラに収めたのでした。

　船上の語学教室に参加すると、耳慣れないはずの言語の魅力にぐっと引き込ま れることがあります。今回 は初のアラブ諸国ロケとあって、船内で行われたアラビア語教室を取材しました。
　ところが、イタリアの客船なので説明がイタリア語。まったく分からない2つの言語が交錯する上、時折英語も飛び交う授業の内容を、混乱しそうになる頭を整理しながら理解しようとするのですが、アラビア文字の区切りさえ分かりません。しかし、雰囲気だけでも伝えようと撮影を続けているうちに、複雑で難解なアラビア語が楽しく思えてきたのです。

　帰国後、この教室の面白さを何とかして伝えたいと考え、たっぷり時間をとって長めに編集したのですが、試写の席では「くどい上に分かりにくい！」と一喝され、放送では半分以下になってしまいました。アラビア語にすっかり魅せられた 今、次回に備えて教室を探しています。